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9.魯山人の大冒険

 すかさずリー棒ぶったてて足を投げ出すのは誰あろうさっきから一人で麻雀やってた萩原聖人。
「俺は別に和久井でも白鳥でもどっちでもいいんだ」
 と独り言。それを聞きつけた三浦知良、
「いや女房はホラ、かゆい所に手が届くようじゃないと、やっぱり」
 などと言いつつビールを飲ませて酔っ払わせて手元を狂わせる算段を...そこまでして勝ちたいか、読売ジャイアンツが展開した焼き畠農業的ローテーションは、結局ブルペンの砂漠化を招くには至らなかった。
「もういい。砂漠化計画は中止だ。今度は白銀を招くことにしたからね。ヤッホー」
 と明るく大きな声を上げると、国有林を大雪崩が襲った。どうやら国有林の価値を減じて安く買い叩く腹らしい。
 砂漠の代りにゴルフ場か、パチンコ屋をつくらせれば、CR機で天下り、官々接待し放題、テレホーダイ、なら通話料安心とホイホイ通信にうつつを抜かしID停止、転落凋落没落堕落の一途を追うものは10トンの放射性廃棄物を得る...
 ふと我に帰った魯山人、もう解凍・エトワールの亡霊の音痴なシャンソンに悩まされることもなくなったわい、と胸をなでおろす。
 だがその手は意に反しひたすら弾くよアコーディオン、枯葉かさこそ枯れ葉よ絶え間なく秋の日のヴィオロンの響きにも似てわが身世にふる長雨の中を歩めば、立ち並ぶ樂聖たちの銅像は酸性雨に侵されて物悲しく、オムレツの匂い流れるパリの街の人々がみょうに優しく親切である。
「私達はお客様本位のパリをご賞味いただきたく・・・」
 耳に甘い囁きに気をとられるうち足元を糞にすくわれ排水溝から地下下水道へと流される。
 ジャン・バルジャンが住んでいた家を見学する。
 カモナマイハウスのメロディにホームシックにかかり、泣き濡れて東海の磯に蟹と戯ると見せかけて、蒸篭の中に向かわせれば、なんといつぞやの母蟹ではないかとひるんだ隙に指をチョキンと鋏で切られた口からちいさな無数のきらめく魚娘たちが溢れ出る。群れをなして大川を遡ればかつての清流が戻って、江戸前の穴子を天麩羅に揚げさせて、さも旨そうに頬張れば、さすがの魯山人も堪り兼ねて、そのふうわりした舌触りへの絶賛が飛び出す。さらに、魚娘の残した鱗の天麩羅も酒肴によきかな。
 ご満悦の魯山人、
「さて帰るか」
 と鍋の油を東京湾に棄てて尻に帆立ててしゅらしゅしゅしゅ、と波面を滑って行くが、急に富津沖で便意を催したので、ブリブリブリとしてしまったが、環境保全に厳しい鰤が尾行していました。
「こらこら。糞して早逃げ八手の得とは何事。今時パンパースでさえ老人用も揃いおるにぃ」
 鰤、謡いおりますと上手より現れましたは娘のおむつを洗うモノゲン夫人。
「紙おむつより布おむつと主張してきたけれど最近洗濯が面倒で面倒だわ」
 と愚痴るわきを
「それが人生じゃ!」
 と言い捨てて素知らぬ顔で通過駅のホームにたたずむ雨の朝となりの傘のしずく首筋につつつとかけられ身悶えしたとたん我に返った。
 もはやかつてのふっくらした面差しも消え、深い皺に彩られ、ブルセラに通う毎日。カァペっとホームに啖を吐きますと、奈落にすうっと沈みこみ、はっと気付けば立ちはだかるは鍋奉行。
「約束のこれが幽界煮込み愚鈍であるぞ」
 はっとして耳を澄ませば静謐な住環境を意識してか静かに響く除夜の鐘にかすかに混じるのは紅白歌合戦。赤いシルクハット振り回す桜田淳子の太股に欲望をたぎらせ食い入るようにみつめているうちに幽界煮込み愚鈍がのびてしまったのはひとに喰わせておいて、自分は懐から取り出した粉山葵と醤油の小瓶。どうやら山形は天童辺りから通信販売でより寄せたしょっつるらしく魚も。オタマで軽くゴルフスイングなどしながら覗くとハタハタがハタハタハタを産みハタハタハタがハタハタハタハタを産みハタハタハタハタがハーターハーーー...ふと気づくと先頭にはハタがいるので、さっそく清蒸にさせて香菜を散らして食べようとすると
「俺はハタじゃない。バタだ」
 と言う。

10.北海道庁職員、畑正憲に虎をしかける。

 単なる延命工作だとは思いつつも「壮快」の「佐久の鯉でガッツモリモリ長生きマル秘健康法」を実践するために背に腹はかえられぬ。柔よく剛を制す、たとえのごとく、甘言を操りかえすは北海道庁職員、この健康法の費用はきっと空出張で捻り出したに違いない。
 そういうことだからシマフクロウの棲息地がなくなるのだ、と畑正憲が日課のジョギングに精を出しながら声高に叫ぶと、道庁官僚配下の刺客虎がアングル肌着姿で穴グマに餌をやっている某畑に狙いを定めた。
「このエセ動物愛護主義者め。ワシなんぞ動物を愛護しているより看護婦の踵でグリグリされながら注射針で動脈をこねくり回されて鼻の下を伸ばしたい。ワシは虎だがな。虎が看護婦に鼻毛抜かれてもそれとわからぬ暗闇のまっくら森の中にだって五分の魂はあろう、スチュワーデスに尻毛抜かれてもわからぬ、ワシは虎だがな、サロンの暗闇のどことも知れぬ片隅に肩震わせてうずくまる貴婦人の亡霊にそっと手を伸ばして金沢の雪を見に行こう、と誘う。ワシは虎だがな、魔法瓶を携行して水質を調査するよな野暮じゃない。おお犀川が伸び伸びと伸びをしておるわ。サイにはツノがはえてくる。そのツノを恥ずかしげに隠すのが能あるというもの。金沢ではハンパ者は住みにくいだろう。金沢の東の廓ではやり手婆さんが『ごきみっつあんなるな』と謎の言葉で女性達を働かせている。これがアジアを喰いものにする日本の遊廓の正体か? いやいや搾取されているのは遊廓の方らしい。近江町市場では遣手婆の干物だの、遊女の牙などが密売されているそうな。ワシは虎だが」
 などと昨夜の深酒を後悔しながらフィリピンのけつを懐かしみ仁丹を舐め舐め、虎は畑の背後に忍び寄るが、歯に挟まった仁丹を気にした隙に穴熊の最後っ屁を浴びせられそのまま畑の背後で伸びてしまった。
 ムツゴロウ野口五郎大石吾郎の三兄弟は虎を卯辰山へ探しに行ったがいるわけもなし。きっと虎に名を借りてデバ亀に弟子入りしたものの、富良野の原生林に骨まで愛され鮭にかじられ羆に抱かれてこれがホントのひぐまで愛してよ、などとオヤヂギャグを一発かましてみるがそれで受けさせてしまうと、これがかえって自己嫌悪。謝ろうとしてもオヤヂの口臭がきついので、かえってシラケてしまう魯山人。なにか秀逸なギャグでバカ受けを狙おうにも思いつくのは下ネタばかり。やることがないので無精髭でも伸ばしてトリートメントするか。ドライヤーで冷たい風を一定方向から当てると輝きが出るんだよ。ジュクヒッピー仲間じゃ、これがイカスってんで大人気さ。グッとシビれた逆さクラゲだって聞けば股間がずっこん。思わずよろめいて気絶している虎の尾をぎゃふん。目覚めた虎が後足ふんばり某畑のつもりで跳びかかったは、なんと魯迅。阿Q正伝を紐解けば。メシっ。ワシは虎だがな。フロっ。え、AQ正伝っ?ネルっ。寝ちゃ困りますがナ旦那。ズッコケちゃうなぁ、モー。いやワシは牛ではなくて虎だがな、畑でも魯迅でもいいや、やっちゃえ。

11.魂の自分さがし

 とそこに魯山人の手が伸びてきて虎の腹にあったファスナーを引き開けた。虎は偽物か?中は人間か?宇宙人か?固唾を飲むムツゴロウ野口五郎大五郎三兄弟。なんと博学にして性狷介な中島敦が現れたが、その正体は傷痍軍人か?アカのインテリか?ゲルピンテンプラ学生か?ニ、ニ、ニーチェかサワトー出さんかい・・・
「ほんまに出してどないすんのや」
「どぴゅ」
 みんな悩んで大きくなったモノも今では萎み、突き出た腹の下でブラブラしていたものに突然気づき、あわてて丁寧にしまい込む。髪なども、、そこで気がつく。
「私に髪などない、私は誰だ?」、
 テレパスに乗っ取られた虎の中の中島敦の中の憑依された魂は外へ出たくてむちゃくちゃに走り回り暴れ回り喉が乾いたのでいったん腰に手を当ててコーヒー牛乳を飲み干しまたしても走り出した。一位走者との差は50m。向かい風が強い。しかし魂は風の影響を受けない。吹き飛ばされたのはカツラだ。中国の、いや違ったタイの立てのよい娘さんが吹きすさぶ風にスカートめくられ「Oh! モーレツ」などと愛敬をふりまいている陽気なカツラ工場製の飛んで行くカツラから微妙に視線を反らせる黛敏郎と神田川サンクス弁当を食べたぶんだけダンベル体操でもやってカロリーを燃焼させなければの娘。ドライヴウェイに春がくりゃスタミナをつけねばにら炒めライスを外食券に交換するのはひとりぼっちのドライバー。助手席に座る恋人はいないのですか。いや僕の心はカロリー娘と楽しくピンポンしたあの夏の思い出が今も輝き続けています。赤マムシドリンクのパワーが徹夜明けのどろどろしたピンポン玉を丁寧になめまわし、したたる唾液を花柄のハンカチでふき取りながらもまだ
 ……これはピンポン玉じゃない眼球だ。この眼球運動はレム睡眠の。すると俺は夢の中へ行ってみたいと思いませんかの声に誘われて道をあやまったあの徹夜明けの兎跳びデスマッチで意識を失い倒れた連中の中のひとりだったのか。いやそれとも深夜のエアロビクス大会にうち興じた末に、すべてを、今朝大量に飲んだギムネマと紅茶キノコとともに吐き出してしまったのか。自分は軍人だが、糧秣を粗末にしても手からカッパをはなしませんでした。かっぱ、かっぱらった、とってちってたったかたー、と捕まったストレスを発散するかのように大声で歌うカッパは、まだ愛を知らない。恋は水色では愛は何色、と聞かれてドドメ色と答えて空振った昨日は、禁酒禁煙を誓い、ストレッチにヨガ、はてはぶらさがり健康器にスタイリーまで電話くらっさーい。臭い付きシミ付きで体のウズキをさますのでース。お買い上げ戴いた皆様に、今ならもれなく健脚向き富士登山御来光付をプレゼント。これで一気にモテモテさ、と僕はダイヤル廻したよ。受話器の向こうで
「はい、火葬場では東洋一の規模、デラックスな設備、ゴージャスな雰囲気を誇る『帝都ナパームセンター』です。通常火葬コースの他、鉄板の上のアッチチ踊り付きダイエットコース、死者の遺言を憶測するイタココース、墓が不用な完全燃焼コース、広島風お好み焼きオタフクコースがございます。控え室にはカラーテレビとルームランナーを完備。当社専属のスポーツアドバイザーによる健康増進メニュー作成も資産増進メニュー作成と同時に承ります。」

12.虎の衣を着るカッコウ(日本の会社員)の独白。

 これはきっと新手の資産搾取にちがいないと思いながらも、滝に打たれて修行していた祖父さんの姿が目に浮かんできた。褌からはみ出たイチモツさんこんにちは、と挨拶するのは滝壷に住むカッコウ。破廉恥なことをたくらんでいる証拠に服装が乱れている。サイケなカッパとラメの長靴を脱がせて、虎の衣と交換。
「狐でなくて残念だったな、俺は虎の魂の皮算用を生き馬の金玉を抜く勢いで計算しながら名刺交換するジャパニーズサムライ、またの名を水野緑。スピード出世を約束されても俺の腰は低い。バーコード頭のオヤヂをおだてて仕事させておいて、おいしいとこはいただくけれど、どんなときでも、オヤヂの影を踏むことはしない。三歩さがって電気アンカで臭い草履を暖める。派閥に染まった歯車が描く軌跡はスピログラフ、まじで股間に根が生えて性病科に描く軌跡はスピロヘータ、街頭でがなり立てるはスポークスマン、マントル動かすは鉄人じゃなかったマグマ大使、大正ロマンはミルクほおるのこぉひぃとむせかえるような白粉のにおい。煙草を絶ってた俺には紫煙を見るだけでもう手が震えてくる。情けない煙草中毒よ。おおこの香はゴールデンしとやかバットではないか。あれを吸うと思わず三つ指ついてしまうんだよなぁ。こうもう碧眼の身長二メートルに背後から襲われたときもさっと体を入れ替えてワキ固めをかけるのが日課になってしまっている。必殺技だが大半は脇の臭いのをなんとかしようとしてゲランのタルカムパウダーをどしゃどしゃはたいてる隙に逆に関節を極められてしまうのが」
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